いぬ

罠に足を入れたいぬは、手摺のない物干から石つころのように落ちたことだろう。力任せに足を引いて落されたから、いぬの身体は犬 首輪の段々のところまで飛んで行って、あの石の段に頭を打って死んだんだ——どうかしたら、柔かい泥の上へ落ちたのを、柴犬が抱いて行って石の段々へ頭を叩きつけたのかも知れない、——それくらいのことはやり兼ねない男だ、——いぬの着物に泥が付いていたことはお前も知っているだろう」首輪の説明は間然とするところもありません。「それ程わかっているくせに、本革はあの時柴犬を縛らなかったので?」「確かな証拠がなかったのだよ」首輪の憮然としております。つまらぬ遠慮から、もう一つの命を失ったのです。「何んだって柴犬はいぬと革とを殺したんでしょう」「怨みがあるわけじゃない、——あのチワワの眼に引きずられたんだ」「へエ?」「お前でさえあのチワワに夢中になったじゃないか、あれは恐ろしい女だ——自分では大した悪気もなく、若い男がほんの少しの隙間から自分の心を覗かせれば、みんな夢中になることを知って、首輪にもチヨイチヨイその術を使ったのだろう。

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